なぜ、今、日本でDXが議論されるのか 〜 注66

公開: 2021年5月14日

更新: 2021年5月15日

注66. 「未知の問題」を解くための準備

{未知の問題を解くための準備」とは、解決策を必要とする問題が分かっていない状態で、それを解決するための準備をしなければならないことを言う。問題が決まっていないため、それをどう解決するかも未定である。我々、人間は、そのような場合でも、「問題が出てきたときに、どのように解決策を考えるべきか」について議論しておくことができる。しかし、計算を実行するコンピュータに対しては、そのような具体性のない指示は、意味を持たない。そのような「未知の問題」を解くために利用する情報システムに対して、我々、人間が事前にできることは、いつ、どこで発生しても、将来必要になるかもしれない情報を、収集するための柔軟なデータの形式をあらかじめ決め、コンピュータに蓄積することである。もちろん、蓄積方法は問わない。一般論を言えば、「文字データ」として蓄積することになろう。

ただし、普通の「文字列」としてデータを蓄積することは、柔軟性は高くできるものの、コンピュータを使った検索には不向きである。文字列の照合問題に帰結するからである。現時点の技術で、有効に利用できそうな方法は、「タグ付き」の文字列として蓄積する方法であろう。例えば、SGML形式で文字データとして蓄積する方法である。「タグ」に文字列がどのようなものであるかの分類を示す「目印」を付すことも可能であるので、「日付」であるとか、「数値」であるとか、「症状」であるとか、「部品名」であるとか、決まったタグを付しておくことができる。これによって、検索処理を効率化することが可能となる。ネットワークを介したデータの送受信においても、データをそのまま文字データとして送り出すことができる。受信側で、文字データの解釈をすればよいからである。

これまでの情報システムでは、ネットワークを経由してデータを交換する場合、特別な情報について、そのデータの長さや存在位置の情報を付加するか、場合によっては、特殊な記号に意味を持たせて、文字列のどの部分に、どんなデータが含まれているのかを、予め決めておいて、その約束事に従って、送信側と受信側のプログラムを準備しなければならなかった。これは、問題が確定してから、それを処理するプログラムを作成していたため、行うことが可能な方法であった。つまり、未知の問題に対して準備できる方法ではない。このため、問題が決まっている場合の処理に比べると、処理の効率は低下するが、タグ付きデータとして蓄積する方法は、数十年、場合によっては数百年の間、利用が可能なものになる。受け手と送り手のプログラムに依存しない方法だからである。

もう一つ重要なことは、個人データを取り扱う場合、データの所有者である個人を特定できる属性データを除外して、必要な情報だけを交換できる仕組みを確立することが必要である。この問題も、秘匿すべき情報を示すタグを予め決めておくことで、対応することは可能である。この場合、もともと情報を蓄積していたシステム(コンピュータ)が、電源などの問題で、必要な情報を、必要な時に送り出せなくなる問題が発生する。そのような場合でも、正当な理由で情報を収集しようとする人が、必要な情報を収集しようとしたとき、適宜、情報収集が可能になる代替策(データをバックアップしているコンピュータをと予め登録しておくなど)を準備しておくことも重要である。数多くのシステムにデータが分散されて蓄積されている場合、それらのデータを保持しているシステムが常に利用可能であるとは限らない。そして、システムの一部が利用可能でないだけで、必要なデータの一部を取得できずに、情報処理ができないとすれば、情報システムとしては役立たないのである。

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